今年もあと3か月。早い。
朝飯を食べながら悪役レスラー伝の第二回を見る。「銀髪鬼」と呼ばれたフレッド・ブラッシーについて。語り手は森達也氏。
1918年生まれ。プロレスラーデビュー当時は端正な顔立ちだったため、ベビーフェイス(善玉)レスラーだった。ところが人気が出ない。アメリカ南部に拠点を移したとき、勝ってもスタンドからヤジが飛ぶ。「北部へ帰れ!」彼の中で何かが切れた。観客に向かって叫んだ。「この変態野郎!」悪役レスラーへ転向した瞬間だった。得意技は噛み付き攻撃。対戦相手の額は割れて血まみれになった。
来日は1962年。グレート東郷らとのタッグマッチ戦。ブラッシーの噛み付き攻撃により、壮絶な流血試合となる。試合のTV中継を見ていたお年寄りが心臓麻痺で亡くなった。試合後にそのことをインタビューされて、「アメリカではもっとショック死させた」と平然と語る。徹頭徹尾悪役だった。
語り手の森氏は、彼の悪役ぶりは仮面だ、として、プライベートを調べる。奥様は27歳年下の日本人女性。すでにご本人は2003年に他界されていたが、森氏は奥様にインタビューする。そこで語られるブラッシーは寡黙で読書家。誰よりも血を怖がるとてもリング上の彼からは想像できない姿だった。
リング上で観客を罵倒する。アジってアジってスタジアム全体を盛り上げる。彼の母親は一度だけブラッシーに招待されて観戦した。そこには彼女の知らない息子が居た。試合後、彼女はブラッシーに尋ねる。「いつものやさしいフレディと、試合のときのフレディ。いったい本当のあなたはどっちなの?」 ブラッシーは答える。「どっちも本当の自分じゃない。」
番組はここでエンドロールが流れる。ものすごい余韻を残された。家族に見せた「やさしいフレディ」もまた仮面だったのだ。
リング上には虚と実が入り混じっているように、人間の中でも虚と実が入り混じっている。レスラーは悪役と善玉に分かれてリングで対決する。それが本質的に「虚」と知りながら観客は試合に熱狂する。
そこでハタと繋がった。観客は自分の中の虚と実、本音と建前をリング上のレスラーたちに投影しているのではなかろうか、と。より良く生きようとする善の心と、要領よくてきとーにしたい悪の心が入り混じっているのが人間だ。観客の中の善と悪をリング上に投影させて闘わせる空間がプロレスのスタジアムという装置なんじゃないか。すごいぞプロレス(!)。
8273歩 4.96km 59分 485.3kcal 20.3g

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