河口湖スペシャル その1

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 毎年8月の第一週には、古書業界も一週間の夏休みがある。その間は業者の交換会が開かれない。例年、ワタシはその期間に夏休みをいただき、家族で旅行をすることにしていた。今年は無理を言ってバス釣りの聖地、河口湖へ行かせてもらうことにした。ただし、あくまでも家族旅行であり、女房には「中日の1日だけね」と釘をさされてしまった。

 初日の8月1日は富士五湖めぐりでもするか、と御殿場から東富士五湖道路を山中湖まで飛ばし、朝8時過ぎには明神下の駐車場へ入れた。ボート屋さんの真っ黒に日焼けしたおにいちゃんはえらく商売熱心で、家族連れが車から降りると見るや即、声をかける。「ボートどうぞ、いらっしゃいませ、どうぞ」しかし、スワンの3人乗りは30分で2,000円と、二つ返事で「乗ります」とは言えない金額だった。明神下は山中湖の入り口だけに無料駐車場はたくさんあり、ボート屋もたくさんある。ちらっと他のボート屋を見たが、やはり同じ値段だった。「のりたいー」と涙目で訴える息子に押され、仕方なく、ワタシも涙目で2,000円を支払い、スワンに乗り込んだ。

 乗ってみるとなかなか快適だった。風が強く、涼しい。空は真っ青で、富士山には雲が棚引いている。まさに最高のロケーションだ。家族は単純にボート乗りを楽しんでいるようだったが、ワタシ一人だけはボートでバス釣りに出ている人たちの様子をうかがっていた。…釣れていない…。ワタシたちがボートに乗っている30分くらいのあいだ、岸から少し離れたところにアンカーを下ろして釣り糸を垂れている人たちばかりだったが、釣り上げている人をとうとう一人も見る事が出来なかった。バスは岸際に付きやすい魚ではなかったか??それにしても山中湖は広い。バス釣りといえば亀山湖ばかりに行っていたワタシには広大に広がる水面を見るにつけ、単純に海の入り江のような雰囲気に思えた。

 山中湖明神下

 8月1日は山中湖湖謝祭かなにかの日で、夜には花火も打ちあがるという。そのため、朝10時を過ぎたあたりから駐車場は満車で、周辺道路も大渋滞の状態となった。ボート屋の半券を持っていくと割り引きしてくれるというソフトクリーム屋さんで巨峰ソフトクリームを食べ、湖畔にしばらく佇んだ。そのあとデニーズで遅めの朝食を摂り、早めに行動した方がいいか、という判断で忍野八海へと向った。忍野では富士の水が涌き、ほとんど透明な水の中に大型のレインボートラウトが放されていた。こりゃフライでも落そうものならとたんにビッグファイトが起こるなぁー。と一人想像した。さすが観光地だけに商魂たくましく、御土産物屋さんの中を通らないとこの中池を見学する事は出来ない。「何もお買い上げでない方は入場料100円をレジにお支払い下さい」と張り紙がしてあるが、払っている人はいない。うちはこう言われるとバツが悪くてお土産を買ってしまった。”無料”駐車場でも、お土産を買わないと無料にならないと書いてあり、買ってしまった…。忍野の水のように澄んだ心でいたいものだ。

 忍野中池のレインボー

 暑い。まだ昼を少し過ぎただけという時間なのに、暑さでへとへとになっている。やはり真夏の暑い盛りに家族連れで観光地を転々と移動するのは重労働だ。女房も同じ意見らしく、早くも旅館でゆっくりしたいらしい。今日から二日間宿泊する河口湖の山岸旅館へと向う事にした。

 さて河口湖である。大学生の時、ブラスバンドの合宿で来て以来の河口湖である。当時、バス釣りはもちろん、河口湖そのものが観光地然としてつまらない、と合宿でそばまで来ていながら湖畔に立つ事もなかった。そんな河口湖がワタシの中で俄然注目するべき湖になったのは、バス釣りにハマッていることはもちろんだが、バス釣りの聖地として頻繁にバスを放流し、観光資源としてバス釣りというものに取り組んでいる数少ないフィールドだ、と思えたからだ。とかくバスは漁師から害魚とされ、自然保護団体の人もバス憎さからバスを釣っている人まで感情的に憎んでいる状況を見聞きする。しかし、逆に国から漁業認定を受け、放流して囲い込む事で人とお金を集めている河口湖のような場所もあるのだ。これも立派な漁業である。淡水系食物連鎖の頂点に立つバスはその食物が豊富にない事には必ずその数を減らす。バスがたくさん生息できる場所にはそれだけの数を支える餌としてのベイトフィッシュも豊富にいるのであり、それは自然が残されている事の何よりの証明なのだ。刺すような日差しに照らされて河口湖へ向かう道中、そんな事を考えながら、ゲーリーヤマモトの所在地としても有名な船津の山岸旅館へと到着した。

 フロントへ行くとチェックインが2時からなのでまだ入室できません、と言われ、時計を見ると1時20分過ぎだった。仕方なく、旅館の前の黒い溶岩で出来た岩場でバス釣りをしている人たちの様子を見てみる事にした。一目でプレッシャーが高い、という状況は見て取れる。岩場には鈴なりで人が釣り糸を垂れている。やはり日曜日だから多いのだろう。しかし、その釣り人を支えるだけのバスがいない。見ているとさっきから釣れているのは一人だけ。中学生くらいの少年バサーで、仕掛けはスピニングにゲーリーの4インチグラブのようだ。ただしサイズは20cm前後の小バスばかり。河口湖のバスは小さいと聞いていたが、どうやら本当らしい。時間を忘れて見ていたところ、「そろそろ2時じゃない?」と女房に言われ、我に帰らされた。よし、チェックインしたら釣りにこよう、とその場では決心したものの、部屋に通された瞬間に風呂へ行きたくなってしまった。最上階にある展望風呂に入ってしまったらもう駄目である。すっかり気分良く眠くなってしまい、夕食までごろごろしてしまった。やはり早起きして疲れたということもあったろう。夕食のあと、近くのセブンイレブンで買った花火をやり、その日を締めくくった。明日は釣れるのだろうか。

 河口湖夜景

 8月2日。朝から快晴である。あわただしく朝食を済ませ、昨日セブンイレブンで買っておいた遊漁券を半ズボンに付け、ルアーを入れたウエストバックを装着。帽子をかぶって準備はできた。9時には旅館を出て仕掛けの準備に入った。女房子供は、富士急ハイランドで機関車トーマスを見る、と張り切っていた。

 河口湖遊漁券

 河口湖遊漁券は図のとおりだが、セブンイレブンでも売っていたのには驚いた。そして、ここではルアーやフック、おもりまで定価ながら売っていたのだ。さすがにバスの聖地河口湖。おそるべしセブンイレブンである。裏には注意事項として、遊漁する釣り竿は一人2本まで、遊漁時間は日の出1時間前から日没後1時間までとし、夜間の遊漁は禁止、など、規定されている。一日1,000円(税別)は決して安くはないが、発行者である河口湖漁協が放流を積極的に繰り返している様子を聞くと、なかなか高いとはいえないようだ。

 旅館前の湖畔に降り立つと、いきなりボート屋のおじさんに声を掛けられた。「おにいちゃん、釣りかい?ボートはどう?」とりあえず結構でーす。昨日の少年バサーが釣り上げていた様子を見ていて、タックルはスピニングにノーシンカー。ボート釣りは少し様子をみてからと決めていた。昨日見ておいた溶岩で出来た岬をめざす。ここは放流で有名なロイヤルワンドの東端に位置する。あたりには誰もいない。昨日の混雑がウソのようだ。すると、いきなり向う岸でボイル。岩場のすぐそばのシャローである。ぶしゅぶしゅ、ぱこん。と音がした。そーっと近づいてみると、もうその場所にバスはいなかった。意外に水深は浅く1メートルあるかないか。快晴の太陽から注がれる光で底まで丸見えだ。何度か投げ入れるものの、何も反応はなかった。

 岬の先端へと移動した。水は信じられないほど澄んでいる。亀山湖はクリアレイクで有名だが、ここに比べたら問題ではない。さすがに富士山の湧水でできた湖である。きれいな水に魚は棲まないともいうが、ここはアブラハヤなどのベイトフィッシュも豊富でバスにも棲みやすい環境のようだ。あ。見えバスだ。結構魚影は濃い。ただし、溶岩で出来た岩場で、釣り糸を垂れていると河口湖の広さとあいまって磯釣りで黒鯛でも狙っているかのような錯覚に陥る。投げた仕掛けを巻き上げ、付いている餌がアオイソメでないことを確かめて、ああ、バス釣りに来たんだっけ、と我に返る。

 10時をすぎ、オカッパリの人もさすがに増えてきた。ボートで釣っている人は結構いる。しかし、釣り上げた人はワタシの見える範囲では誰もいない。自分が釣り上げてしまうのが一番気持ちいいものだが、他の人が釣り上げない様子をみると、それはそれで不安になる。”このポイントでよいのだろうか?”という気持ちが大きくなってくる。オカッパリの基本のなかに頻繁にポイントを変える、というのがある。釣れないと思ったら歩いて釣れそうな場所を探すということだ。その原則に従い、溶岩の岩場伝いにゆっくりながら移動し続けた。河口湖ではウィードについているバスを狙うというのがセオリーらしい。そのため、ボートに乗って魚探を積んで魚影を確かめながらルアーを投げ込むのだ。ワタシの場合、魚探を持っていない。ボートに乗ったところでウィードの位置もわからず、釣りにならないことは予想できた。そのためのオカッパリなのだが、まだ一度もバイトがない。目の前にはボートが4,5隻、時折通過する鯨型遊覧船と遊覧モーターボートの波に揉まれながら苦戦していた。風が強く快晴の空ということもあり、とても気持ちのいい釣りだが、もしかしたら釣れないかもしれないな、と少々弱気になった。

 昼が近づいた。そうだ、MANABUさんにTELしてみよう。J−PHONEは亀山湖では圏外だが、ここ河口湖なら3本立っている。もしもし。「おお、甘露さんか、どう?釣れた?」いやー、溶岩の岩場でサ、風は強いし、波が高くて海みたいだし、磯釣りやっているよーな錯覚を起こしてるよ。「ああそう、釣れそうもないってことね」ギク!でも、気持ちいいから夕方まで粘ってみるよ。ところで今日は何してんの?「店開けてるから仕事ですよー、お客さんは休みらしくて来ないけどね」そうかー。こっちが休んで釣りしてるっていうのに仕事ですかい。まさにアリとキリギリスだなぁ。

 バスを釣っていれば気持ちよく食事をする気にもなるだろうが、未だボーズである。手持ちのカロリーメイトを食べて昼飯を過ごしてしまうことにした。そうだ、まだZEALのテラーを投げていない。どうせ釣れないならワームを投げているだけではつまらないではないか。一旦車に戻り、空になったペットボトルの水分を補給し、スピニングからベイトに持ち替え、テラー3/8ozを付けて投げることにした。クラッチをはずし、キャスト。しゃーっとABU2500Cが気持ちよく鳴る。ぽちゃっと着水。ロッドを下げてリールを半分づつチャッ、チャッとテンポ良く巻き上げる。するとテラーはくいっ、くぃっと頭を振りながらこちらへ泳いでくる。なかなか楽しい。これで釣れたら最高だな…。と思いながら投げた3投目、ボートを係留するためと思われるブイにテラーが引っかかった。げ!これはマズイ。やはりオカッパリでZEALを投げてはいけないという言葉にはちゃんと意味があった。回収できないからだ。パニックになった。慌ててボート屋のおじさんにボートを1時間だけ貸してくれと頼む。「はい、2,000円ね」なにぃー、たった1時間で2,000円?このおやじ、足元を見やがったな!…しかし背に腹は変えられない。テラーが戻ってこないよりは2,000円で回収できるなら安いものだと思わなければ…。ここでも泣く泣く2,000円を支払った。ロッドを置き去りにはできない。一度ラインを切らなければいけない。ロッドを引っ張り、ラインを切ろうとテラーに対して垂直に構えて力んだ瞬間、びょーんとテラーがすっ飛んできた。…ううう、回収できたではないか…。ラインが切れてからボート屋へ駆け込めばよかった…。しかたない、そのまま1時間ボートに揺られてみましょう。

 しかし、その一時間、波に揺られながら岸際を狙うものの、まったくバイトもなし。テラーだけでは波が高いので無理だと判断し、ワームに付け替えて挑戦するも無反応だった。やはり河口湖では岸際のパターンは通用しないようだ。

 結局、ボートの一時間は無意味に過ぎてしまった。またオカッパリでワンドを狙えば望みもあるさ、と気持ちを切り替えるようにした。そのうちに足が痛いことに気が付き、見てみると日焼けで真っ赤になっている。そうか、今年初の半ズボン。この快晴では肌がキツイのは当然だ。うーん、どうしようかな。とりあえず浅瀬で足を水に着けて立ち込んでしまおう。ロイヤルワンドは溶岩が岬のようになって連なっている。岬をひとつ越えると猫の額ほどの砂浜があった。そこには桟橋が作られ、ボートが係留されている。ひとり中学生くらいの少年がそこで釣っていた。ここもポイントのようだ、と思いながら砂浜から湖へ立ち込んだ。ああ、気持ちいい。これでひとまず日焼けの足も助かるだろう。と、のん気にそこからノーシンカーを投げ入れていた。すると信じられないほどクリアな水の中から魚がこちらを見ていた。目が合った。むむ、これはバスなのか?砂浜で見ただけに鯛のように見えた。しかし、ロッドを動かすとササッと逃げていった。

河口湖スペシャルその2へつづく