亀山湖はけっこうシブい。行くまでに時間もお金も結構掛かっているという思いがシブさ加減を少し過大に評価させているのかもしれない。たまたまなのか、ただワタシがヘタクソなのか、2回に1回程度しか釣らせてもらえない。身近でお金も掛からず釣れる場所はないのだろうか。
身近といえば、多摩川がある。雑誌でも紹介されるくらいのバスフィールドらしい。ただ、多摩川へ何度か行ったが、一度もバスらしき魚を釣り上げた人を見た事が無かった。もしバスが居るのだとしてもすごくシブいことには変わりがないようだ。ただし、歩いて10分で雑誌でも最高のポイントといわれる丸子橋にいけるのはツイている。先輩でご同業の釣り師匠にも「多摩川に(バスが)いるらしいから通ってみたら?俺も一匹ワームで釣ったよ」とアドバイスされた。灯台下暗し、になっているようならつまらない。多摩川でプラグを投げてみましょうか。
7月に入るとワタシは毎年明治古典会という古書市場が年に一度開く大市で駆り出される。今年は芥川龍之介の「鼻」の完成稿や、樋口一葉の書簡が出品され、新聞紙上でも取り上げられるほど話題の多い大市になった。その準備作業やなにかで約一週間はお茶の水駿河台下の東京古書会館にカンズメになり、一日中本と対面する。そんななか、7月9日は中日で仕事が空いた。溜まっていたストレスを発散する意味でも多摩川でプラグを投げる事にした。
訳も分からず通って投げていた頃、実際に釣れているのはへら師とフライで鯉を釣る人だけだった。バス釣りの仕掛けを付けている人は決まってスピニングを使ってゲーリーの4インチグラブをノーシンカーで投げ込んでいた。ただし、釣っている場面に遭遇した事はない。バスはいないんじゃないか?という思いは全然消えていない。
1999年7月9日午前10時過ぎ、多摩川に到着。最初からいないと思って投げるのもつまらないので、へら師がいつも陣取るポイントそばで魚が居るだろう、という場所を選んで投げはじめた。ロッドはいつものスコーピオン。リールはシマノのカルカッタ。ルアーはこの間購入したYOZURIのアームズマイクロシャッド。サスペンドタイプのルアーなので、投げて着水するとゆっくり沈む。巻きはじめるとやはり小刻みに震えながら泳ぎ出し、たまに平打ちもする。比較的安いルアーのわりにはちゃんと動くのね。と思いはじめた矢先、すっと引っ張られた感触。反射的にロッドを煽るとびょんとルアーが水面から飛び出てきた。根掛かり?いや、ちょっと違うようだ。なにか居るのだろうか。
よく分からないがなにか期待させるものがいる。プロならここでフォロ-ベイトとしてワームを投げるのだろうが、なにぶん、今日はプラグを思いっきり投げようと思って来たため、ワームは持参しなかった。仕方ないので、同じ仕掛けのまま投げつづけた。2投、3投。ドキドキしながら投げたため、狙いが外れがちだ。4投目。するするするっと泳いでいたプラグがぐんっっと重くなった。来たかっ!と合わせたがすっぽ抜け。いわゆるビックリ合わせになってしまったようだ。そのあとなにか魚がバシャバシャと跳ねている。やはり魚だった。一体なんだろう?!ニゴイでもいるのかしら。
その後も何度かアタリを感じ、合わせるたびにすっぽ抜けた。それにしても魚の方もよくこんなヘタクソに合わせて何度も食いついてきてくれるものだ。すると5回目のアタリ。一呼吸置いてからロッドを大きく煽るとぐぐんっとかかった。ぐいいーっと引っ張る。重い。夢中で巻き上げるとひらを打った魚体が見えた。何だ!?あれは!?鯉じゃないのか!どうみても鯉の魚体ではない。あまり抵抗しないのですぐに手元まで引き寄せる事が出来た。うえぇー、これは何だ??アミメニシキヘビに似た模様を持つでっかい得体の知れない魚が小さいルアーをくわえている。釣り上げたと同時にへら師のおじさんがいつものようにといった様子で自転車をそばにつけた。おじさん、この魚なんていうか知ってます?「おお、おにいちゃん、これは雷魚だよ。こんな所で雷魚なんて珍しいよ。なんで釣ったの?」はあ、これですよ。とルアーを見せる。「そうかい、雷魚は肉食だからねー。それでそんなのに食いついてきたんだよ。おにいちゃん、運がいいねぇ」雷魚といえば食いついたら離さない事でも有名だ。それだけにフックを2個ともくわえている雷魚を見て、どうやってはずそうか、と不安になった。「それどうするのかい?逃がすのももったいないかもねぇ。水槽に入れて餌を適当にやっておけば強いからいつまででも生きてるよ」うーん、そんな事言ってる場合じゃないんだけどなぁ。そうだ、針外しを使えばいいのだ。と、はさみに付いている針外しでなんとか二つともフックを外し、サイズを測ってみた。47cm。なかなか大きい。
多摩川の雷魚 47cm
こんな魚が多摩川にも居たとは。でも狙って釣っても多分駄目なんだろうな。すると待ってましたとばかり、どこからか猫が二匹出てきて毛を逆立てている。「ほら、おにいちゃん、猫が欲しいってさ。持って帰えんないんなら猫にくれてやりなよ」もう、いろいろ言う人だなぁ。しかし、こんな気味悪い魚にアタックするつもりの猫もなかなかたくましいな。「で、おにいちゃん、追い出すわけじゃないんだけどさ、ここはへら鮒の場所なんだよね」ええ、もう大物を釣ったので帰りますよ。しっかし、「へら場」と書いてあるわけじゃあるまいし、やっぱりへらの人はずーずーしーね。せっかく釣ったんで家族に見せてやろうか。と近くに捨ててあったビニールの買い物袋に入れ、多摩川の水を汲んで持ち帰る事にした。
水を汲むとき、ゆっさゆっさと雷魚は身をくねらせ逃げたい様子。みんなに見てもらったらまた逃がしに来ますから、ちょっとガマンね。
ふっと思いつき、丸子橋下で釣り部部長HIDEさんにTEL。もしもし、今、多摩川なんですけど、雷魚を釣りましたー。47cm。「え?雷魚?おいおい、俺らが仕事してるってのに甘露さん、多摩川で雷魚釣ったってよ、わはは」まわりのひととしゃべっている。すいませんね、今仕事中でしょ?「うん、いま大市の受付やってる」写真も撮ったんですけどこれから家族に見せに一度持っていくところなんです。「え?持ってくるの?持ってきて神田川に逃がすとかする?」なんか会話がかみ合っていない。ケータイなので電波状態が悪いようだ。
雷魚を入れた袋には穴がいくつか開いていた。少しづつだが水が少なくなっていく。帰るまで約10分。水は完全に出きってしまい、あとからは雷魚が分泌したものと思われる粘液状の透明な物体がポタン、ポタンと滴れている。ちょうど幼稚園から帰ってきた長男が店先におり、ワタシの姿を見るなり「見せてみせて!」と駆け寄ってくる。「うわぁー、気持ちわるーい」見るなり奇声。店番をしていた親父も吃驚。「へぇー、こんな魚が多摩川に居るのかねー」皆におだてられすっかり気分が良くなった。
気分が良いそのままに多摩川へ放しに行く事にした。破れた袋は取り替え、水は水道水を入れた。するとときたまブハーぶはーっとなにかを吐き出すようで、入れ替えたばかりの水はすぐにゴミだらけになってきた。放す直前、名残惜しいのでもう一度女房に写真を撮ってもらった。
雷魚の顔
意外に静かにしている。しかし、いざ多摩川の水が視界に入ったかどうか、というところで「もういいだろ」と言わんばかりに身をぐねぐねと揺らせ、勝手に戻っていってしまった。きっと二度と釣れる事はないだろうなぁ。
気分が良い。手には雷魚の泥臭さがまだ残っており、夢ではないことを証明していた。何か記念に、とそのあと上州屋でお買い物をしてしまった。
ABU GARCIA 2500C CLASSIC GOLD
スピニングよりもベイトの方によくヒットする。やはりベイトをメインに、というワタシの思いが伝わっているのだろう(と思いたい)。
多摩川 ”雷魚”ポイント
1999年7月記

