御蛇ケ池へ行ったのに釣れない。この事実は他の人がどんなに釣れていない状況があったとはいえ、ワタシの中では悔しさとなった。なんだかんだいって、結局最初のブルーギルしか釣れていないじゃないか。非常に悔しかった。
毎週金曜日、ワタシは東京古書会館で開かれる業者交換会「明治古典会」で経営員として働いている。G書房のHIDEさんはその仲間で、現在経営員の主任だ。ゴールデンウィーク明けの木曜日、神保町を歩いていると偶然ボルボに乗ったHIDEさんと遭遇。照り付ける午後の日差しのなか、このあいだのHIDEさんが牛久で釣ったバスの話になった。
「一日全然釣れなくて…。でも餌を付けて垂らしておくとギルがホント入れ食い状態で釣れるんだよね」うーん、それでもうらやましい。「でも、餌釣りは邪道だからね。MANABUには邪道で外道か、って白い目で見られたよ」未だボーズ状態のMANABUさんならこのコメントも仕方ないか…。「で、バスはね、夕方近くにゴミが浮いてる中へワームを突っ込んで引いていたんだよ。それで半分くらい引っ張ってきたら急に食ってきた。最初根掛かりかな、とか思ったけど、ぎゅっと引っ張られて、バスがかかったんだ、と思ったらなんか手が震えちゃってさ、なんていうか、竿を握りながら”恐い”っていう感覚で余裕が全然なかったよ」上げてみたら39cmのプリスポーン(産卵前)のママだったので、すぐリリースしたのだそうだ。そっかぁ、恐いなんて感覚は釣ってみないとわからないのだろうなぁ。5月の日差しが強く、ボルボからの照り返しもきつい。そのまぶしさはバスを釣ったHIDEさんのまぶしさのように感じた。
次の日の金曜日、明治古典会の日。ルアーマガジン6月号に載っていたポイント情報で亀山湖が紹介されていたことをHIDEさんに報告すると、「うん、前から亀山湖は行きたかったとこなんだよね」となり、「よし、今度の5月23日は釣り部で亀山湖へ行こう」という話になった。すばやい決断とノリの良さ。そういう事になると、もうじっとしていられない。抜け駆けではないが、今度の日曜日、下見がてら単独で亀山湖へ行ってみよう、と決めてしまった。
1999年5月9日。今回は家族を巻き込んでの釣行になった。亀山湖なんて行った事ないからか、皆乗り気で、朝3時起きという普段なら絶対しないようなことも難なくやってのけた。やはり子供も連れて行くとなると用意が大変。出発してから車の中で食事にしよう、と時間を短縮する努力をしたものの、結局4時半頃にやっと出発する事が出来た。同乗者がいると出せるスピードも落ちるし、トイレの心配も必要。亀山湖は行った事もないので、自然に時間がかかってくる。姉崎袖ヶ浦ICで館山道を下り、国道をひたすらまっすぐ進むと、いくつもコンビニを通り過ぎた。スーパーはあまりなく、このあたりに住む人はコンビニを頼りに生活をしているのだろうか、と少し心配した。単線の踏み切りをいくつか跨ぐと久留里の街にさしかかる。この商店街の看板が久留里城を立体で再現したものを頭に載せて国道を跨いでいる特徴的なものだ。ルアーマガジンのポイント情報に書いてあった通り、24時間営業のコンビニはこの商店街にあるのが最後。ワタシの携帯(J−PHONE)もここから先は圏外で、文明との最後の別れ、のようなものを感じる。
4つの洞門をくぐると亀山湖まで4kmという表示。いよいよ近づいてきた。高まる期待と不安。釣れるフィールドで有名な亀山湖でもボーズならこの釣りを少し考え直した方がいいかもしれない。釣れなかったらどうするか、ま。それはその時考えましょ。頭の中をそんなつまらない事がぐるぐる回っているうちに亀山湖のダムサイトに着いた。時に6時半。おお、みんなボートで出ている。岸際はボートでびっしりだ。地図で見たときにはわからなかったが、ダム湖は護岸が木で覆われていてオカッパリが出来そうな場所が少なそうだ。ええい、面倒だ。ボートに乗ってしまえ。走っているうちにたまたま見つけた看板「のむらボート」。この看板を左に折れ、急坂を下りると駐車場が一台分だけ空いていた。これはボートに乗れという事だろう。よく考えたらこの時間でボートが空いているとは奇跡に近い。2人乗りローボートを借りて4,500円を支払い、家族4人、亀山湖へいよいよ漕ぎ出した。
のむらボート遠景
のむらボートの桟橋を出て、左方向へ向う。シャローが広がっている付近で、オカッパリの人もたくさんいた。ルアーマガジンに載っているポイントでもある。四角い手すりが張られているが、足元は水没している為、みな長靴やウエーダーを履いていた。と、すぐにその手すり付近に生えている葦原から一匹釣り上げた人が現れた。手すりの向こう側から提灯釣りの要領で、である。仕掛けはラバジだろうか。ワームでも根掛かりそうだし、難しい釣り方をしているようだが、釣れた事には変わりない。魚はたくさん居そうである。少し安心した。
長男には家の近くの釣り具屋フィッシング中原で買った、ロッドとスピニングリールのセットで650円というものを渡し、適当な仕掛けを付けて持たせた。女房は長女の子守りで釣りどころではない。早起き、ボート、釣り、いろいろ初めての事がかさなり、皆少し興奮気味で、しゃべりまくっている。周りのボートの人が小さいボートに家族4人が乗っているこの状況を見てクスクスと笑っているような気がして、なかなか集中できない。思う通り釣りが出来ず、長男はいろいろとうるさく、だんだん苛々してきていた。出船から2時間くらいして「そろそろ私たちは上がって、アナタ一人で釣りしたら?」と女房。苛々が伝わったのだろう。少々心苦しいものの、そんな事を気にしている状況ではない。早速桟橋へ向い、下船してもらった。
一人になったからといってすぐに釣れるものではない。桟橋の右側葦原シャローに向けてラバジを投げる。反応なし。引いてくる。投げる。反応なし。引く。何度かしていたら、引き上げる直前に魚影が着いてきていた事に気が付く。気が付いたときには遅いもので、ガリっとバスの口に一度引っかかった感触を残してラバジは水面から離れた。「ああーっ。いまここまで来てたのに!」もちろんそんな事を言っても何にもならない。それでもさすが亀山湖。バスは居るし、いまワタシのすぐ前まで来た。御蛇ケ池とは違う。少し気合が入って来た。
亀山大橋のたもとに滝の流れ込みがある。流れ込みはポイントだ、といろんな本には書いてあったので、ここでしばらく常吉を投げる。やはり反応なし。いかにもバスの居そうなシェードもあるのにアタリさえなかった。しかたなく、また先ほどの葦原へ移動。常吉でネバるものの駄目。
桟橋の反対側では三人乗りの船が先ほどの手すりのあるシャロー側に陣取り、何匹か交互に釣り上げている。なんでこっちは駄目なのかな…。不思議だし、くやしい。このまま一匹も釣れずに帰る事は出来ない。実績のある場所に集中してみよう、と決意し、その3人が釣っている場所ぎりぎりののむらボート桟橋近くシャローに船をつけた。
こうなったら常吉頼みである。セコ釣りの代表格といわれる常吉リグに常吉ワームをセットしてシャローでネバる。今日はこの場所で最後まで釣り抜く、とどこかで決めていた。投げてゆっくりゆっくり引いてくる。言ってみればこれだけのことである。あとはそこにバスがいれば常吉ワームの動きで食いついてくるに違いない。根掛かりが多い。いくつか仕掛けを持っていかれた。スピニングタックルで投げるのが常識のライトリグだが、仕掛けを結び直すのが面倒になり、ベイトタックルに付けていたテキサスリグにスプリットショットオモリをかませて変形スプリットショットリグにして投げつづけた。
ネバって釣っているあいだにも、隣の3人はバスを釣りつづけた。大体10分のうちに誰かがバスを釣り上げている。大きさはそうなくとも、釣る瞬間を何度も味わえるなら気持ちいいだろう。たまに大物も釣り上げている。バスがかかると決まってロッドの先を水面下に落として巻き上げている。それにしてもどうして隣のワタシにはアタリさえないのか。何が違うのか。悔しさを噛締めながら投げつづけ、30分ほどたった頃、くんっと根掛かりのようなアタリを感じた。いや、ホントの根掛かりかもしれない。しかしロッドを軽く煽ってみると、ぐぐぐん、と横に走りはじめた。あ。かかった!バスだ!とうとうこっちにもかかった。ロッドがいい感じにしなる。よし、釣ってやる、捕まえてやる、とリールを巻きはじめたその時「ばしゃっ」と跳ねた。おっ、結構大きいじゃないか。少なくとも30cmはあるゾ。しかし次の瞬間、しなっていたロッドは何事も無かったように直立した。「あ。バレた…。」初めてかかったバスは、その感触だけ残して逃げてしまった…。がっかりしたが、その時は前向きになれた。ここなら釣れそうだ。気を取り直して同じ仕掛けで投げつづける事にした。
すると5,6分後に再び同じようなアタリ。今度はバラしたくない。ロッドを軽く煽って合わせるとぐぐぐん、と感触が伝わってきた。今回は不思議と落ち着いている。慎重に巻き上げるうち、バスがかかるとロッドの先を水面下へ落としている隣の3人組の釣り方を思い出した。すぐに先を水面下に沈め、すぐに巻き上げた。あまり抵抗もないうちに足元まで来た。あ。小さい…。そうか、さっきのとは違ってまだ釣られた事のないバスなのかもしれない。釣り上げた瞬間、急に心臓はどきどきし、足元がふらつきはじめた。急に素に戻ったというか、バスとのやり取りのあいだは緊張していた身体が、緊張が解けた瞬間に開放された為の反応なのだろう。初めて釣り上げたバスである。釣れて良かった。と思いながらバックからカメラを出した。何枚も写した。メジャーを持たず、ちゃんとした大きさはわからないが、20cm前後だと思う。逃がすのがもったいなかったが、網も持たずに来たので名残惜しいながらもリリースした。しばらくきょとんとした目をして留まっていたバスもハッとわれに返るなり、亀山湖の深みのある色の水の中へ溶けていった。
のむらシャローの初バス
ロッドはダイワ、トライフォース−Zのベイト。リールはシマノのバスライズ。仕掛けはスプリットショットリグの変形版。ワームは常吉ワームのセクシーパンプキン色だった。
一匹釣って安心した。安心してしまうと、どこかどうでもよくなっていた。投げる腕からも力が抜けている。先ほどから桟橋でお迎え(長男)もうろうろしており、女房は日陰で休んでいた。そうそう、彼らが陸に上がってくれたおかげで釣れたんだ。こっちは満足したのだから、今日は帰りましょう。時に4時半。いつのまにか日はかなり傾いていた。
「釣れたよ」と魚をかざしたいところだが、魚はリリースするのがこの釣り。きっと女房は理不尽さを感じているだろう。長男に何をして遊んだのかを聞くと、「水鉄砲してた」「そうそう、カエルがいたよ、ほらほら!」と彼らは彼らなりに亀山湖を楽しんでいてくれたようだ。
帰りは木更津北ICからアクアラインで帰路についた。夕焼けを浴びて顔が熱い。相当顔が日に焼けたのだろう。日焼けで今日一日を振りかえり、つらいながらも楽しい一日になった、と火照った顔をゆるませた。
アクアライン夕景
1999年5月記

