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バス釣り事始め

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 1999年4月中旬、ブラックバス釣りに行かないか、と神保町G書房のHIDEさんに誘われた。毎週金曜日に開かれる神田の古書市場で一緒に働いている仲間だ。場所は牛久沼だという。ボート釣りで面白いよ、との事だったがもちろんバス釣りなんてした事も無い。そもそも生き餌を使わない釣りの代表がバス釣りである。小学生の時に近所の多摩川で鯉を練り餌で、ハゼをミミズで釣っていた経験はある。魚は餌で釣るものだ、という感覚は抜けていなかった。果たしてルアーで魚は釣れるのだろうか。釣れるかどうかは半信半疑のままとりあえず連れて行ってもらう事にした。

 集合は午前5時に常磐道谷田部インター出口。バス釣りは朝が早いと聞いていたが、ここまで早いとは…まいったな。当日の日曜日、朝は3時に起き出し、コンビニでサンドイッチと飲み物を買い込み、4時前に出発。信号待ちの時にサンドイッチを頬張ろうと思っていたのだが、想像以上に道が空いており、食べる間もなく荏原高速入口に差し掛かった。曲がりくねった首都高速の上ではちょっと食事は無理だ。代わりにFMラジオをかけると普段は聞いた事の無いようなクラシックの番組がゆったり流れていた。普通なら完全に眠くなってくるパターンだが、夜が明けないうちに車で出発するという興奮を味わいながら走りつづけると、眠くなる事はなかった。逆にレインボーブリッジの上から見る夜景がきれいで、また来たいな、と思わせた。首都高速中央環状線を走っている間、何度もワタシの前にも後ろにも車が一台もいない、という状態になった。これが渋滞で有名な首都高速なのか?これだけ走れれば700円なんて安いものだ。と、気分良く走りつづける。渋滞情報で有名な小菅をあっさり通り抜け、常磐道に入ったあたりから空が白々と明けてきた。天気は薄曇り。さて今日はどんな一日になるのだろう。期待と不安を感じつつ、集合時間ちょうどの5時少し前、谷田部インターに到着した。

 この日集合したのは8人。G書房からHIDEさん、TOMOMIさん、SHAさん。S堂からKENTAくん、ONOUEさん。N書店からMANABUさん。書肆HからRYOHEIくん。そしてワタシ。皆、眠気など微塵も感じさせない。元気だ。聞けば皆上州屋でいろいろと釣り具を買い込んできたらしい。初めて聞くカタカナ用語が飛び交う。ベイトリール?なんじゃそれ。

 谷田部インターから車で15分。貸しボート屋「吉乃屋」へ到着。ボート屋といいながら看板には堂々と「お食事処」と大書きしてある。朝はボートを出し、昼間はお食事を出しているようだ。なかなか商売熱心だ。早朝5時半だというのに我々が到着したときには他にも大勢の釣り客がすでに来ており、店の前に車を置ききれない。荷物を下ろした後で第二駐車場へ車を回した。ここでボートを借りたのだが、どこか前近代的な方法で客が捌かれて行く。客が計算の間違いを指摘して「すいませんねぇ、眠いから…」と照れ笑いで受け答えするナイスなおばさん。

 そんなこんなしたあと、出発。船は4隻。HIDEさん、TOMOMIさんチーム、SHAさん、MANABUさんチーム。KENTAくん、ONOUEさんチーム。RYOHEIくん、ワタシチーム。思ったよりも寒い。4月だというのに真冬の格好をしてちょうど良い。本当に釣れるのだろうか、という不安を感じつつ、先ほどよりも雲が幾分厚くなってきた牛久沼へと散らばって行った。

 慣れないボート操作にまごつきながらの釣り。結構大変だ。仕掛けは貸してもらった釣り具屋で安く売っているスピニングリールと竿のセット2,000円というものにクランクベイト。ルアーについては同船のRYOHEIくんに貸してもらった。あたふたと仕掛けを整えてとりあえず第一投。着水するとぽこっと水面に顔を出し、こちらを見ている。リールを巻き始めるととたんに潜り、体を小刻みに震わせながら泳いでいる。ハゼを模したルアーだというが、格好にも動きにもなんとも愛敬がある。何投かした後、ポイントは葦の際と聞いていたことを思い出し、せっかくだから、と、葦際へ投げる、潜る、泳ぐ。なかなか面白いじゃないか。そう思いはじめたとたん、葦に根掛かりを起こして回収できなくなってしまった。上州屋のセールで買った安物というが、値段を聞いてみると決して安いものではない。このままではルアーがいくらあっても足りないようなので、初めて教えてもらったテキサスリグでリングワームを投げる事にした。真黄色にきらきら光るラメが入り、プラスチックというが、手触りが妙にリアルで生々しい。ただし、これなら単価はクランクベイトの半分以下になる。

 それでも根掛かりが多い。バスのいる場所は葦の生えた奥だというので、根掛かりをしない事の方が少ない。後で知った事だが、餌釣りの要領でワームをフックに通し刺しをしていたのがいけなかったようだ。基礎知識の無さはこんな所に出る。そのため、柔らかいワームは傷みも早く、すぐに切れて短くなってしまった。なかなかアタリがない。これは想像以上に厳しいな、と思い始めた矢先、またも根掛かりと思い引き上げようとするとビクビクっとアタリの感触。いや、違うかもしれない。反応が断片的で葦にひっかかりながら巻かれているだけかもしれない。「あっ」魚だ。きらっと白い腹が光った。逃がすまい、と、あわててリールを巻いているうちにあまり抵抗もなくすぐ上がってきてしまった。”魚とのファイトを楽しむ”なんて感触を味わう暇もない。上がってきた魚はバスではなかった。えらぶたが青い綺麗なさかな。早速RYOHEIくんがHIDEさんにケータイ。「はーい、外道のブルーギルでーす」とのこと。はじめて餌釣り以外で釣り上げた記念すべき魚だ。本当に釣れるのだ、と感心したのと同時に「釣りは餌釣り」というワタシの中の”常識だったもの”が崩れていった。

 ちなみにバス釣りはキャッチ&リリースというのが基本とされている。釣れた魚は逃がすのである。なにかもったいないような気もするが、食べても美味しくないそうだ。それならいたずらに持ち帰って死なせてしまう事はない。逃がす事に賛成だ。今回は後で釣れた魚を計量しよう、ということだったので、網に入れて船にぶら下げ、釣行に付き合ってもらう事にした。当のギルちゃんはイヤそうに網の中でバチャバチャと暴れた。

 釣れるパターンがひとつつかめた。しかし、葦の際を狙うと相変わらず根掛かりが多く、その度に糸に引っ張られ、ボートはポイントと思われる場所へ引っ張られる。そこから脱出するときにバシャバシャ水面を叩いてしまっては、魚も警戒してしまうだろう。連れてきたブルーギルも時たま暴れる。仲間に”人間が来た”とサインを送っているようだ。ますます釣れない気がしてきた。キャストの不正確さと細かい配慮の不足が祟って、その後は葦の際を狙って投げ込みを繰り返したが、何の反応も無く終わった。昼過ぎに風が強くなり、納竿。牛久では風が強くなると釣れないといわれているそうだ。

 8人中、釣れたのは4人。ブラックバス1匹。ブルーギル3匹。バスは釣ったその場でリリースしたそうで、結局お姿を拝む事ができなかった。ボーズチームが一隻出たが、言わぬが花、か?

 釣果 ブルーギル 1

 一度釣れるという事がわかってしまうと凝りはじめてしまうのがワタシの性分。さっそく牛久沼で皆が使っていたベイトリールというものの存在が気になりだした。確かに前からなじみの深いスピニングリールはベールを返したりする作業が多くて少し面倒だ。このベイトリールはそんな作業がなくて、思い通りに投げられるというのが売りである。ただし、バックラッシュというライントラブルがつきものなので、投げるのに少し慣れが必要という。このあいだ同船のRYOHEIくんも何度となくバックラッシュを繰り返していた。とりあえずどんなリールがあるのか、神保町の帰りにでも上州屋へ行ってみる事にしよう。釣り具屋へ足を運ぶのは何年ぶりだろうか。小学生以来の出来事だ。

 渋谷駅南口から246を跨ぐ歩道橋を渡ると一階が眼鏡屋のビルの3フロアで営業しているのが上州屋渋谷店である。かなり大規模だ。その2階がバス、シーバス、フライ釣りの専門フロアとなっている。入ってみると店員さんは皆ガングロ。どうやら休日は決まってバス釣りに出掛けているらしい。店員さん同士の話をそばで聞いてみると、言葉の端々にバサー特有のカタカナ用語が飛び交うのでわかる。店内をぐるっと回ってみると、ルアーはもちろん、ワームもひととおり揃っているし、ロッド、リールも安いものから何万円もするものまで様々。定価が4万円もするロッドとこの5千円を切るロッドにはどんな違いがあるのだろう。と、結局なにがどうして安い、高いとなるのかがわからないため、レジの前にあったセット販売されているものを購入することにした。

ロッド ダイワ トライフォース−Z

リール シマノ バスライズ

 これに糸が付いて約7,000円。ひとまずこれに特価品で並んでいるワームを2,3種類とテキサスリグ用シンカーを買物籠に入れた。レジでは実際にロッドを取り出し、2本を継いで天井にゆっくり当ててしっかりしているかを確認させられた。対応は丁寧だ。仲間内で話していたときの口調は消え、しっかりお客と接するときのものとなっている。こんなセットを買うのは初心者に決まっているはずだが、初心者だからといって対応を変えないのには好感が持てた。

 さっそく投げてみたい。今度の休みの日は多摩川でルアー釣りだ。

 その週の日曜日。昼頃から多摩川へ出掛ける。きっとバスはこの川にはいない。そう思っていたので、基本的には気楽な釣行だった。前日の大雨がやんで空は晴れていたものの、川はだくだくとミルクコーヒー色のまま大きく流れている。それでも東横線下の取水堰では少年バサーが群れてルアーを投げ込んでいる。コミックにブラックバス釣りがテーマのものがあるらしく、それでバス釣り人気が盛り上がっているようだ。とてもそこに混じって釣りをする勇気はないので、とりあえず人の少ない堰上流でベイトリールの投げ方の練習をしようと決めた。しかし、バス釣りは餌釣りよりもお金がかかりそうだ。本当にここでバスが釣れるのだろうか。釣れないものにお金をかけるよりも釣れる鯉やハゼにお金をかけた方が楽しめると思うのだが…。そんな事を思いながら釣り場へ急ぐうちに何かを釣った少年が現れた。遠くて何を釣ったのか見えなかったが、多摩川もこの流域は汽水となっているため、運が良ければシーバス(すずき)も上がってくるらしい。もしかしたらそれか…。うーむ、うらやましい。釣りあげた少年の喜びようとはうらはらに周りの反応は意外に冷静。何事もなかったかのように更に激しくキャストを繰り返していた。

 ロッドをケースから出すのももどかしく、2本を継ぎ、リールを取り付けて、ガイドにラインを通す。中通しオモリを通した後、フックを結んで特価品だったパドルテールワームの4インチを取り付けた。いわゆるテキサスリグである。さっそくの第一投はバックラッシュなしで投げ込めた。リール、シマノのバスライズにはマグネットブレーキが内蔵されており、バックラッシュ防止に一役買っている。1から10までの数字を小さくするほどブレーキ力も小さくなり、遠くまで飛ぶ。逆に最大にするとブレーキがかなりかかりバックラッシュしないものの遠くまで飛んで行かない。向かい風にルアーが煽られたり、木にぶつけたりするとブレーキに関係なくバックラッシュすることが多くなる。慣れないものだから何度かバックラッシュを起こし、直してまた投げる。そんな事を繰り返すうちにベイトリールの特徴がだんだん分かってきた。

 ベイトリールは基本的に、1.クラッチをはずし、親指でスプールに巻き付いているラインを押さえる。2.キャストと同時に親指を放し、ラインを放出する。3.着水と同時にサミング(再びラインを親指で押さえる)する。4.巻き上げはじめるとクラッチがつながり、ラインが巻き上がる。という操作をする。着水と同時にサミングしないと、ラインの放出が着水でストップしたのにスプールが動きつづけてしまうという状態になる。行き所を失ったラインはスプール上でモシャモシャになってしまい、これをバックラッシュという。原理の違うスピニングリールには起こらない特徴のひとつである。

 昼ごろ始めた釣りも夕方6時になり、そろそろ止め時。途中、ワタシのそばをバス釣りと思われる仕掛けを付けて投げ込みをする人もいたが、ワタシの仕掛けにラインを絡ませたりしながらも投げ、魚がいないとわかると短時間で移動して行った。そういえば周りで魚を釣りあげた人は誰もいない。目の前を鯉の群れが悠然と泳いで行き、消えた。日も陰り、投げるのにもそろそろ飽きてきた。ここらが潮時か。

 バスはいない、と思いながら投げていたことも作用したのだろう。もちろん釣果はゼロだった。

 多摩川取水堰


 
 

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