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ARAKI VIAGGIO SENTIMENTALE

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ARAKI VIAGGIO SENTIMENTALE
荒木経惟
Gli Orl 2000年4月15日発行

 1999年の4月から東京木場の東京都現代美術館で開催された「センチメンタルな写真、人生。」はイタリアでも開催された。そのときに付けられたタイトルは「VIAGGIO SENTIMENTALE」つまり「センチメンタルな旅」だったわけである。
 ただ、開催期間は約一年間の開きがあり、巧みに新作も取り入れられている。まったく同じ展示ではつまらないという判断だったのかもしれない。

 キュレートしたのはF.MAGGIA氏とB.CORA氏の二人のイタリアンで、本編に入る前に詳細な解説を書いている。この中で、荒木さんの作品はマン・レイをはじめ、橋口五葉、葛飾北斎の浮世絵の描き方との共通点がある、という興味深い考察を図解付きで展開している(原文イタリア語)。たしかに表紙の藤野ともねさんは、光の当て方(自然光を用いる)などにマン・レイを思わせ、シチュエーションとメイクや、プリントの調子などから、日本の伝統的な雰囲気を微妙ににおわせ、普段ならフラッシュ一発を直に当てる荒木さん”らしくない”写真がわざと配されている。しかし、そのままでないのはこの写真に日付が入っていること。写真作品に日付が入る、という荒木世界ならではの特徴は外していない。

 <FLOWERS COLOUR PAINTED>
 最初にカラーでリングストロボに照らされた花を接写した写真がくる。生き生きとした鮮やかな赤、少し枯れかけのヤれた黄。この花芯の奥には吸い込まれそうな宇宙がある。そして次のページをめくると、いきなりモノクロのヌードに絵の具で直接ペイントされた作品群。テーブルの上に横たわったカラダの喉から女陰まで、青から赤までのグラデーションかかった微妙な色が真一文字に横切っている。屏風の前で着物をはだけて横たわる女にも、赤と青と黄色が引かれる。ソファに寝る女の陰部から赤、緑、黄色が。フローリングに置かれたラジカセの上に横たわって反り返る女には足と陰部から青が。そして、大理石の床に置かれた籐椅子に寝転がる女の開かれた大股からは赤と黄色のグラデーションが噴き出している。
 ”気”のようなエネルギーが女のカラダから出るとしたらこういう表現になるのではないか、と思わせる。写真に入っている日付を信じるならば、このペイントヌードは「センチメンタルな写真、人生。」展以後に撮られた新作である。

 <TOKYO NOSTALGY>
 TOKYO NOSTALGYとは荒木さんがペンタックス645で”映画的”に撮影した作品群を指す。東京の1970年代から80年代にかけての風景が日付なしで描かれる。新宿に貼られた明治座のポスターに写っている天地茂。ソープランド神楽坂。路傍の地蔵。小石川税務署に貼られた速水優。善隣ビル地下食堂。新宿区下宮比町の歩道橋。クルマドからの足立ナンバーのダイハツ。街角のタバコ櫓。映画的に連続撮影された男と女の姿。陽子さん。中華屋のショーケース。食卓の刺身とししゃも。きれいに畳まれたブラ。選挙ポスター。駅前の放置自転車。平和堂靴店のサンダル。三千院京子との逢瀬。少女物語。原稿執筆中の陽子さん。シノキン氏と女のカラミ。タマサブロー氏と女のカラミ。豪徳寺駅前点描。円山町の情事。神楽坂を歩く三千院京子。女を縛ったまま繋がる男。世田谷線山下。公園の馬シーソー。赤坂裏通り。六本木歩道橋。袖摺坂。昭和天皇一般参賀。原宿ホコ天。新宿駅南口。歌舞伎町ホストクラブ看板。佃天安。勝鬨橋。とび職二人。雨の渋谷スクランブル。百軒店フレッシュマンベーカリー。ファッションヘルス・ニューヨーク。円山町ラブホテル街。彼岸の墓地。長原眼科の看板。
 東京ノスタルジーに日付を入れないことで、荒木さんは東京の過ごしてきた時間をシャッフルする。言い方を変えれば、日付の無いことで見ている者は現在の東京と平行して走る”荒木的東京の世界”へおとしいれられるのである。日常の東京風景が非日常の風景である女のあっけらかんとしたヌードとともに提出されることで、読者は知らず知らずのうちに平衡感覚の自由を奪われていく。東京とヌードと風景の組み合わる独特の表現はイタリア人の心に深く突き刺さったのではないだろうか。このページには数枚性器が写ったカットが入っている。日本では出版はおろか、流通することもないに違いない。

その後<90’S DIARLY><POLAMANDARA><ARAKI’S PARADISE ARAKI’S LOVERS><CLOSE RANGE><SENTIMENTAL JOURNEY><VIAGGIO IN ITALIA>と章は続く。日記写真、ポラロイド写真、私的関係写真、空景、センチメンタルな旅、冬の旅、そして、最後はイタリア人の肖像写真で終わっている。一人の写真家が全て撮影したとは思えないほどある写真の方向性。それは、荒木さんが写真という「センチメンタルな旅」を続けてきた結果である。
 1992年から始まった荒木写真の海外進出。その流れは止まろうとはしない。

2001年2月13日記


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