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■東京日記1981−1995 写真時代5月号増刊

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東京日記1981−1995 写真時代5月号増刊
荒木経惟
白夜書房 1987年5月15日発行

 日記写真集である。荒木さんの日記写真集にはその奇抜な発想が編集に用いられることが多く、傑作も多い。この写真集には「荒木経惟の偽日記」と同様のトリックが用いられている。それは、日付入り機能のついたコンパクトカメラ(おそらくミノルタハイマチックと思われる)の日付部分のダイヤルを指で弾いて適当な日時に設定し、そのまま写真に撮ってしまい、あとで出来上がったその出鱈目日付の写真を写っている日付順に並べなおして日記写真集にする、というものだ。
 写真は現実であり、記録である反面、その現実性を逆手にとって、現実を映していながら非現実化してしまおうとする荒木さんの試みが見える。実際に、この写真集の発行された日時は1987年であり、タイムマシンでもない限り題にもある1995年が写っているわけがない。荒木さんはわざと最初から日付の種を明かしているのであるが、読者はそれがウソであると知りつつ、荒木さんの演出にのってしまうのだ。

 さて、東京日記である。荒木さんから見た東京が写っていると思いながら見ていくと、やはりこれは過激な内容である。編集がかの写真時代の末井サン担当である。過激になるのはむしろ当然かもしれないが・・・。
 ちょうど「東京ラッキーホール」としてまとまる写真群を撮っていた時期に当たるためか、夜の東京を写したものがたくさん入っている。ストリップ劇場の生板ショーからソープランドのマットプレイまで。キャバレーで遊ぶ荒木さんや、末井さんと女体盛りを食べる姿もある。
 有名人も登場する。八代亜紀、中上健次、林葉直子、坂本龍一、桑原甲子雄、木内みどり、吉永小百合のサイン、田中康夫、南伸坊、山田詠美、工藤夕貴などなど。
 荒木さんの写真世界ではおなじみの、三千院京子サン、突然の恋人Mサン、そして陽子さんも登場する。
 東京の昼も夜も、裏も表も知る荒木さんの東京写真には、東京のウソとホント、本音と建前が写っている。風俗関係に働く彼女たちは、無論、本名を名乗らない。名札には「ナンシー」「スージー」といったわざとウソくさい名前をつける。そんな匿名性を帯びる風俗系の女のコの写真は、ほとんどすべてヌードになっているか、縛られて女陰にバイブを突っ込まれているか、女体盛りの器となっているか、大股を開いているか、客をマットでくわえている。東京という街で別の名前を名乗り、女という”性”を前面に出し、自分ではない自分になって生きていく彼女たちの姿である。これは東京の中で起きているホントの事なのであるが、彼女たちにとってはウソでもある。当事者までがウソだといっているコトを荒木さんはドキュメンタリー”風”写真として捉えていく。東京がウソをついているのか、東京が彼女たちにウソをつかせているのか、それとも荒木さんがウソつきなのか。しかし、荒木さんの前で彼女たちが性的な存在になることはホントである。それが荒木さんが感じる東京の姿なのだろうか。
 東京は女に昼と夜の姿を強いることでその均衡を保とうとする。東京というシーソーの片側に乗り、女との均衡を保っている存在は、男という存在をおいて他にない。荒木さんが捉えた東京の女の生態のその向こう側には、男という要素があることが透けて見えてくる。男と女が本能に身を任せるとき、それを抱きとめ、支えるのは女陰たる東京の夜の顔なのである。

 気になる写真が一枚ある。多分この写真集にしか載っていないであろう陽子さんの写真である。日付は86.1.3.意外にこの日付は出鱈目ではない。自宅のバルコニーで和服姿の陽子さんが、漬物石大の石を両手で抱えながら物干し竿から伸びるヒモに首を引っ掛けて目を閉じている姿を引き気味に写した写真。陽子さんの死という現実をすでに知っている我々であっても、この写真には目を奪われてしまうはずだ。

2000年7月5日記


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