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猫の姿を求めて東京を歩く荒木さん。あとがきからその足跡を追ってみよう。 「招福猫児(まねぎねこ)の豪徳寺 私は世田谷の豪徳寺に住んでいます。日曜日はいつも午後4時頃この路をゲタばきで(ひとり)富士屋食堂にカツカレーを食べに行きます。いつもこの路には猫がウロチロしてんだけど、きょーは一匹もいない。と想ってたら樹の上にシロクロちゃんがいた。うーれしくなっちゃって写真してたら、美少女2人登場。さすが招福猫児の豪徳寺。」陽子さん亡き後の荒木さんの生活が垣間見える記述である。富士屋食堂のカツカレーはきっとうまいのだろう。このあとがきを見る前はこの写真に猫が写っているとは思わなかった。通りかかったご近所の美少女二人を猫に見立てている写真だと思ったのだ。ニッコリ笑顔の二人を撮影する様子を、塀の上の木に登った猫が珍しげに視線を送っていた。よく晴れた初冬の昼下がりである。 「月島ハーモニカ横丁 銀座の裏通りを1時間ほどブラついたのだけど、1匹も出会わなかった。どこへ行っちまったのかニャあ。地下鉄有楽町線で5分、月島に行ってみた。花さがりの植木鉢、ハーモニカ横丁を歩いてると、鯉のぼり、かけぬける少女、ふと路地をのぞくと奥にミケちゃん。あーよかった。月島はまだ猫町。ビールで乾杯、もんじゃ焼き。」銀座にもたしかに猫が居たはずだった。筆者がカメラ屋めぐりを毎週のようにしていた頃、レモン社裏の路地でひなたぼっこしている猫を発見して、撮影した写真が残っている。警戒心が強くて、カメラを向けたら走り出してしまったが。猫を見つけるのがうまい荒木さんでも見つけられなかった銀座の猫である。カラスに追われてもう絶滅してしまっているかもしれない。月島へはついこの間お邪魔した。家族でもんじゃを食べに行ったのである。あまり長居をしなかったので猫を見ることはなかったが、代わりに入ったお店の店頭に大きな招き猫があった。
あとがきに書かれた情景以外でもさまざまな猫の生き様が活写されている。
神社の境内と思えるような場所で子育てする猫。移動するとき親猫は口に咥えて子猫を運ぶようだ。 「番町皿屋敷猫階段 マンションになっちまった屋敷町。千代田区一番町をアッジェしてると、ありっ、トマソンかな、ちっちゃな非常階段?しばしアラン・ポー然としてると「シロクロちゃーん、お散歩にいっといでー」と、おばァちゃんの声。でぶっちょネコちゃんがバルコニーに顔だして、ニャニャニャーと階段おりてきて、そばによってきてニャーァ。ニャンと猫階段だったのだ。マンションになったって、ネコとおばァちゃんがいるうちゃ、東京都内安全。」このあたりが天才の天才たる由縁であろう。マンションの2階からおりている細い階段を”でぶっちょ”ネコが一匹降りてくる。しかし、場所は名高い御屋敷の町、番町である。まさかそんな階段があるとは思えない。猫のお散歩タイムを外してしまえばただのトマソンで終わってしまっていた。そんな飼い猫の日常に遭遇できるのも、荒木さんだから出来ることなのだろう。
公園にいる猫を探して撮影しているうちに、荒木さんはホームレスさんがダンボールをひいて寝ているところに行き着いた。大きな公園では見慣れた光景になってしまったが、見ればそばに猫が3匹座っている。当のホームレスご本人は寝っころがりながら新聞を広げていて表情を伺うことができないが、猫は3匹とも荒木さんに眼を飛ばしている。政策の失敗に由来する長い不況の影響は、失政した責任者には全く及ばず、代わりに大量の失業者を生んだ。まだまだホームレスさんは増加傾向にあるという。そんな彼らを応援するかのようにこの3匹は彼のそばにいる。 表紙の子猫は野良猫だろうか。荒木さんに鋭い視線を送り、キッと睨んでいる。まるで同情を寄せる偽善者を睨みつけているかのようだ。家を持つ飼い猫と持たない野良猫がいるように、人間もまた帰る家を持つ者と持てなくなった者がいる。”野良”猫などと言っていられるのも今のうちかもしれない。いつ我々だって”野良”人間になってしまうかわからない。ならない保証など、このすさんだ現代日本には何処にもないのである。 2000年12月5日記 |
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