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東京物語 荒木経惟
平凡社 1989年4月29日発行
 荒木さんの写真集には「東京」と名の付くものが多い。ご本人もあとがきでそのことについて言及されている。スクラップ・アンド・ビルドを繰り返す東京。特に近年は繁華街であれば10年と同じ風景は続かない。それでも荒木さんにとって東京は故郷である。荒木さんの撮る東京は、東京にとっての自写像と言えるのかもしれない。
 この写真集は、1989年から遡ること2、3年の間の東京を、6x7横位置で撮影した作品で構成されている。表紙は言わずと知れた渋谷109。超広角レンズで撮影された微妙に歪むシブヤのなかでマリリンのスカートがひるがえっている。東京国際映画祭はいまでも続いているのだろうか。

 荒木さんにとっての東京物語は、日常から始まる。自宅バルコニーの雪景色。季節は冬から春へと向かって動いていく。チロ、陽子さん。二人ともどこか遠くを見つめている。馬事公苑のかわうそのような水飲み場。荒木さんはこれを「自写像」と題している。代々木公園、自宅の柿ノ木の新芽。近所で孫と散歩する爺。どれも荒木さんの日常だ。しかし、そこは荒木さんである。西五反田で手錠をかけた男女に付けられた題は「ホテトル嬢と刑事」。「あとをつけて行ったらラブホテルに入った。」とコメントがある。スッと虚構が入り込んでくる。国会議事堂に目隠し。非日常が急にぱっくりと口を開き始めた。公園のシーソーに付いている馬、表参道のドラゴン、信濃町の公園にいるさびしそうな”動物”たち。皆生きているかのような不思議な生命感。公衆電話いっぱいに張られた風俗チラシ。一軒電話したら来たのが”色白でむっちりしたコ”。そして荒木さんの好きな場所、雨に煙る新宿南口の「個室ヌード・ボニータ」。11年前まで、新宿にはこんな風景があったのか、と思う。この場所はフラッグというファッションビルの前の「道」になってしまった。天皇誕生日(4月29日)東京アリスと皇居へ。帰りの地下鉄で、消えた。

 町田の廃墟でダンベル・ヌード。荒木さんの日常は、時に一般人の非日常と摩擦する。このときは110番通報され、公然猥褻罪で町田署へ連行された、とあとがきにある。銀座の犬、赤坂の鯉。六本木にて路上のスペルマ、16歳のソープ嬢。お台場海浜公園、ゲートボール、路地裏のゴム跳び。夢の島の植物園、曳舟の草野球、月島の定食屋、渋谷の電線、水上墓場、新宿中央公園、円山町ラブホテル街のアベック、吉原の神輿、神楽坂バルテュス。荒木さんの日常と非日常だ。

 後半は年季の入った町がスクラップになっていく絵が多くなる。「この頃、空地小五郎と称して、空地ばかり東京アッジェしていた。どこの空地のまわりにも、人生の裏側が見えた。」とあとがきにある。新宿・柳街は取り壊され、新宿ゴールデン街の看板の横には大きな空き地。世に言うバブル経済が絶頂へと上り詰める寸前の時期に当たっていた。殺された街は生まれ変わったのだろうか。
 西日に照らされる陽子さん、曇り空のバルコニーにチロ、廃屋の階段から落ちる荒木さん、そして中村勘三郎氏の葬儀の写真がきて、晩秋の「昭和天皇」で東京物語は終わる。荒木さんにとっての昭和が暮れていった。

 「私の「東京物語」には、空地の写真が多い。この2、3年に撮った写真なので当然だ。いまの東京は、空地だらけなのである。つい私は空地を撮ってしまう。(中略)もしかしたら、現在の私たちの心や体も空地だらけなのかもしれない。胸にぽっかりと空洞があるのかもしれない。じゃなきゃ、たとえばリクルートだとか、消費税だとか、真理ちゃん事件だとか、んなの起こるはずがない。」「宝石」1989年4月
 汚職、悪政、凶悪事件。東京は病んでいる。これが写真を撮っていて持った荒木さんの感想だ。東京に生まれ育ち、東京を撮ることをライフ・ワークとする荒木さんは、もはや東京と離れることは出来ない。病んだ東京を写す荒木さん、その写真が東京の自写像に思えるのにはそんな理由があるのだ。東京が弱っている時、荒木さんは撮ることでエールを送る。しかし、そんな荒木さんを慰めるのもまた東京なのだ。そんな持ちつ持たれつの関係は、これからもずっと続いていくようだ。

2000年5月9日記

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