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「(風俗店は)光の射し込まない世界で、中に入るには多少の勇気を必要とした。ところが、窓から光の射し込む喫茶店は日常の延長線上にある。(中略)パンツをはかないだけで時給何千円かになるわけだから、「じゃあ、私もやってみる」ということになる。」こうしてシロートの女の子を受け入れる体制が整い、1980年に東京のノーパン喫茶はピークを迎える。 最初は文字通りパンツをはいてない女の子がウェイトレスをする喫茶店だったものが、個室でマッサージサービスをするものに発展し、ついには風俗店の仲間入りとなる。ところが”アルバイトの延長”という感覚のままで働きにくる女の子が多く、風俗の世界に入るふつうの女の子が急増する。本家歌舞伎町にも個室付きノーパン喫茶が続々出現し、過当競争からアイデア倒れに終わる店が続出する爛熟期に入った。その活気の源は”明るい”シロートの女の子が風俗店を明るくしたからだ、と末井さんの分析は明解だ。
そんな歌舞伎町で働く彼女たちを荒木さんはプラウベルマキナ67で撮った。デート喫茶、ピンクキャバレー、愛人バンク、ノーパン喫茶、ショーパブ、トップレス喫茶、カンオケ喫茶、SMショー、覗き部屋、ストリップ劇場、シャワーマッサージ、ファッションマッサージ、ホテトル。 そんな中、「ラッキーホール」が出現する。表紙の写真にもあるとおり、カーテンで仕切られた個室にはベニヤに貼り付けられた”聖子”の顔と”便所の落書き”ほどの身体のラインが書いてあり、局部に穴があいている。客はズボンを下ろして自分の体の一部分を穴の中に入れる。するとベニヤ板の向こう側には女の人がいて、マッサージをするという仕掛けだ。末井さんは興奮気味に書く。「バラバラに入ってくる視覚、聴覚、触覚を、頭の中でひとつにまとめる想像力のセックスだ」と。他にも”知世”の部屋や”明菜”の部屋があるところに時代を感じた。
性(もしくは生)は死とともに、もともと生物として人間に運命付けられた”現実”だ。”運命”と言ってもいい。荒木さんは「東京エレジー」で男と女の間にある”性と死”というどうしようもない要素を写真に叩き付けた。
1985年2月13日に新風営法が施行された。「風俗店のエスカレートを押さえるという裏側に、既成の風俗店を保護する意味が含まれていた。」と末井さんは解説する。保護された店は新しいアイデアを練る必要がなくなり、歌舞伎町の活気は一時沈静化したという。
東京の夜の様子をこうして正面切って作品にするシリアス・フォトグラファーは荒木さんの他に思い付かない。人間に昼の顔と夜の顔があるように、街もまた昼と夜では表情を変える。東京の夜の顔の部分はあまり描かれる事はなかっただけに、その意味は大きい。この本はドイツ・タッシェンから、再編集の上、分厚いペーパーバックの体裁で出版された。 2002年1月29日記 |
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