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『月島界隈』では、夢の島熱帯植物園へ行き、新木場の駅前でオイナリさんとラーメンのセットを食べたあと、月島へ。下町生まれの荒木さんと陽子さんは失われてしまった幼少時代の風景をこの月島に見つける。『東京ステーション・ギャラリー』では、「ホイットニー美術館展」を見に、東京駅へ。ギャラリー・カフェで、元駅の改札員をしていたカウンター勤務の男性と歓談。作品を見ながら写真を撮りたいと思った荒木さんだったが、許可が下りず、おかんむり。レストラン・ばらでサンドイッチの食事をしたあと、JR高架下沿いに歩いて神田界隈まで。『7月の東京画』では、18回目の結婚記念日(7月7日)に有楽シネマまでヴェンダースの「東京画」を見に行く。この映画は小津安二郎の「東京物語」へのオマージュなのである。感動で「涙腺の抑制は完全にブッちぎれ」て、涙が流れっぱなしになる陽子さん。そのあと懐かしい入谷の朝顔市へ行くも「東京画」が頭から離れず、ハイになれない。荒木さんの提案で我慢して夜の谷中墓地を歩き、谷中銀座に着いた頃には午後8時過ぎ。店は閉まり食事もままならない。くたくたになった陽子さんは「もはや、ケンカ腰」になっていた。タクシーで移動した縁もユカリもない青山のバーでジントニックを飲みながら、何らかかわりをもたないことの気楽さに落ち着く陽子さんなのであった。
陽子さんが亡くなってからの荒木さんの日記が、活字に直されずそのまま載っている。バルコニーで陽子さんを感じるものをブツ撮りしていく荒木さんの様子がわかる。書いていてすぐ陽子さんを思い出すのか、陽子さんの記述と、楽しかった頃の写真が半分以上を占めている。「湯上りビール 牛肉とピーマンのあまから煮 なす古漬け 冷凍ごはん 遺影のヨーコとふたりっきりで<食事> 鼻のあたま黒くしてチロすっとんで帰ってくる」 日記のさいごには新盆の記述がある。「7/13迎え火」をし、「7/14新盆」を営むも「7/15送り火しない。帰さない。」で終わっている。竹中直人氏は、この本を書店で立ち読みしているうちにはまってしまい、感動で涙が出、本屋を後にする頃には「是非映画にしたい」と決意を固めていたという。その話は現実になり、竹中直人が荒木さん役、中山美穂が陽子さん役の「東京日和」という映画になった。 巻末にはライカで根岸、根津、谷中の”昔ながら”を撮影した「東京日和」がある。亡き陽子さんに捧げられている。これがきっかけで、荒木さんの写真にモノクロからカラー、カメラはライカを使う、というスタイルが始まる。人生のパートナーにして、写真家人生をともに過ごしてきた陽子さんの死は、荒木経惟という写真家の何かを確実に変えた。 2000年7月18日記 |
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