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カラーページの終わったところで、荒木家の食卓のメニューを荒木さんがメモしておいたものがズラリと載っている。とてもすべて書ききれないので、抜粋してみた。バラエティに富んだ食卓が想像できる。食事が情事ならば、メニューの多さは陽子さんの荒木さんに対する愛情の多さを表わしている。 次のページから突然料理の写真がカラーからモノクロ写真に変わる。『退院してからは、より愛情をこめて料理してくれた。陽子は知っていたにちがいない、あと1ヶ月の命だとゆーことを。 いままでマクロレンズにリングストロボをつけてカラーで写していたのを、モノクロームに変えた。テーブルライト1灯、3脚つけて、F32 1秒。長い1秒のシャッター音が忘れられない。 食事は、死への情事だった。』 荒木さんの手書きの文章が事の次第を語っている。エロスを放っていた料理はモノクロで描写されることによってタナトスを帯び、”エロトス”へと変化していった。
人間が生まれて最初に口にするものは母親の母乳である。料理は母性から愛情として受け取るのが当たり前だ、と筆者は考える。食事を作って愛する人に与えることは、いわば、天から与えられた女
性の特権ではないだろうか。父親から父乳が出るなどということはない。家事は分担するものかもしれないが、父性の復権が叫ばれる現代である。父親には見落としがちな大切な役割が別に与えられているように思う。
陽子さんの亡くなる少し前に奇跡が起こった。ずっと昏睡状態だった陽子さんが口を開いたのだ。「サワラのムニュエルが食べたい。ナスの味噌いためをつくってあげたい、クリスマスパーティをやりたい、・・・」生涯の最後に及んでまでも荒木さんに食事を作ってあげたいと話す様子に涙がこぼれた。 2000年9月26日記 |
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