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荒木経惟の偽日記 荒木経惟
白夜書房 1980年11月10日発行
 荒木さんの日記写真集という体裁をとっているが、題名は「偽日記」と付いている。写真なのに何が「偽」なのだろうか、という疑問が出てくるのは当然だが、もちろんその部分を狙って編集してあるのは言うまでもない。

 発行された1980年当時、一眼レフカメラが黄金期を迎えた頃、コンパクトカメラも負けじと大衆路線を突き進んでいた。力を入れていた部分で一番大きかったのは日付を写しこむ機能を搭載したことだろう。一本のフィルムに正月と桜と夏山と紅葉が写っているようなたまにしかカメラに触れない人にとって、日付機能は「あれ?この写真いつ撮ったっけ?」ということを防止する意味で大きかった。ただし、現在のようにQD(クォーツデート)方式ではなく、年、月、日がそれぞれ独立してダイヤル化してある方式だった。これを手動で回して日付を合わせるのである。そんなアバウトな日付機能に着目した荒木さんは日付までもアバウトに直して写真にしてしまった。つまり、ダイヤルを適当に指ではじいて出た目のまま撮ったり、ある特定の日付にセットしたまま撮り続けたりしたのである。この写真集には79.4.1.から92.5.5まで日付入り写真が並んでいるが、発行が80年だから92年が写っているわけがない。4.1.から写し始めたのは、いわゆるエイプリルフールのシャレであり、この日記写真集がデタラメ日付の”偽日記”であることの宣言なのだ。その適当な日付入り写真を編年で並べることで時間が適当にシャッフルされる。現実を写していながらウソが写っている、というとんでもない写真集が出来上がった。

 79.4.1.(エイプリルフール)ラブホテルでヌード撮影。9.15.末井さんと夜のラブホテル街を闊歩。9.28.上野2丁目の飲み屋街で陽子さん。11.6.恥部屋でヌード撮影。11.8.恥部屋でヌード撮影。当時ヘアはご法度だったため、修正されている。11.9.ピンク映画を複写。11.12.ラブホで撮影。80.11.23.(勤労感謝の日)縄師洋平氏とS&Mスナイパーの撮影。縛られ大股開きをペンタ67で気合の手持ち撮影。一年日付が飛んでいるが、わざとなのだろうか。
 79.12.4.葬儀と大通りを走り去る霊柩車。12.8.劇画館のおねえさんを誘ってホテルでヌード撮影。12.31.狛江の自宅ベランダからの風景。80.1.1.その一日後の風景と食事の支度をする陽子さん。1.3.南伸坊氏。1.15.(成人の日)小田急向ヶ丘遊園行きモノレールにウルトラマンの仮面。スケートリンクですべる陽子さん。4.1.(エイプリルフール)走る藤田敏八氏。歩道を歩く女性二人。その二人のヌードとレズ撮影。横尾忠則氏。乳母車に幼児。カーテンと縛られ女。飲み屋のおねえさん。霊柩車。ガラガラ首都高。自宅前の陽子さん。新宿ビル街のスケートリンク。原田芳雄氏。大船観音。鈴木清順氏。畳に縛られ女。立ちション。布団。青木家家族写真。愛川欽也とかたせ梨乃。秀月の雛人形。狭い路地の霊柩車。恥部屋に張り込まれた写真。

 80年のエイプリルフール写真は非常に多く、この日一日で全てが撮られたものではないはずだ。荒木さんが撮るものによって日付機能をいじってから撮影したものが集められているに違いない。他にも8.6.の日付にはラブホで写した大股開き写真を何枚も配し、TVに写った原爆ドームと花火写真を添える。8.15.終戦記念日の写真も多く、大股開きは当然ながら、空港での空虚な空の写真もあれば、カメラを逆さにして撮った写真、恥部屋に貼られた日の丸と美智子皇后(当時は皇太子妃)のスナップ写真も複写されている。

 現実が写真という二次元世界に収められるとき、何かが余計に写ったり、何かが削ぎ落とされたりして写したかったそのものがデフォルメされてしまうような感覚にとらわれることがある。ならばそれを一歩進めてみようか、というのがこの写真集で荒木さんがやろうとしたことではないだろうか。一般には”写真には本当が写っている”という錯覚が確かにある。現実にあったことを撮っているのだからアタリマエ、というカメラに対して寄りかかった気持ちがそこにある。その一方で写真を表現の道具として使う作家がある。自分の考えを投影できるから使っている、という芸術家にとって写真には本当が写っているなんていうロジックは通用しない。写真は本当が写るようで写らないように出来る表現方法なのだ。
 どうせ本当は写らないのだから最初から写真を偽物と宣言してしまったら・・・、そこからは何か新しい感覚が出てくるはずだ。

 中に一枚、よみうりランドの野外ステージで開かれた撮影会の一齣がある(80.6.1.)。客席にはカメラを手にした大勢の男が超満員でステージにいるであろうおねえさんにレンズを向けている。きっとその人たちはそれなりに一生懸命いい写真を撮ろうと真剣だったはずだ。しかし、その様子を荒木さんはステージ上から写した。客席で狭そうにカメラを構える集団の人間模様のほうが壇上のモデルさんより面白かったからだ。見れば一眼レフを使っているものの貧弱な望遠レンズしか付いていないからモデルさんは画面では小さくしか写らないだろう。最初からポートレート写真を撮るような状況ではないのだ。この写真は言ってみればいつも撮られているモデルさん側から見た撮影者の視線であるが、その様子の方が本来撮影するべき対象よりもよっぽど”写真的”になることがある。

 カメラを持っているから写される事はないという感覚は誤りであり、撮影者もまたモデルをはじめ誰かから見られている。写していながら写されている。裏と思っていたら表だった、という感覚。ものごとは陰陽で成り立っている。ウソかホントか、という二者択一ではない。ウソとホントが一緒になってコトを形成しているのである。そのどちらかに分けて考えるなんて絶対に出来ない理由がここにある。
 コトを写真にして”偽”と言い放つ荒木さん。一見突飛な発想だけのように感じるかもしれない。しかし、普段「写真にはホントしか写っていない」という表からだけ見ているコトを、”偽”と称して裏から探ろうとしただけのことであり、現実に汚染された考えから開放されれば十分納得のいくアプローチのように思えるはずだ。

 この”偽日記”で二次元化されたコトにこそウソとは言い切れない”現実”がある、という二重否定された”肯定の強調”が内在することを、当時の写真界は気がついていたのだろうか。

2000年12月26日記

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