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アラキンZ 荒木経惟
ミリオン出版 1981年11月20日発行
「オレにはオレの武器がある。縄とカマラ、アラキンZ」
 扉ページを開くと荒木さんの手書き文字でこのコピーがある。表紙いっぱいの荒木さんの顔も迫力がすごいが、裏表紙には「アラキンZ」という当時あった栄養ドリンク「アルギンZ」をもじった荒木さんのイラスト入り”性良飲料水”の絵がある。アラキニン入り不健全ドリンクと書かれたこの飲み物の容器は、当然のことながら男根の形にそっくりだ。
 S&Mスナイパーに連載された記事がまとめられた本である。内容はスナイパーショット、緊縛写真となっている。いろいろなシチュエーションで縛られる女たち。男が女を縛りたいように、女は男から縛られたいのだろうか。25人の縛られし女の様子がここに記録されている。

 矢沢夏子という名前は芸名である。同じ広島出身の矢沢永吉の大ファンで、資生堂が宣伝するナツコに似ているから自分でつけたという。「その日、雨。「三愛」でスリップとパンティー買って、「じゅらく」で処女膜ノ内弁当定食食べて、千駄木団子坂の某出版社の倉庫で、ドナ・サマー踊る、夏子を、緊縛。カメラが、カマラになり、責め具になっていった。オシッコに濡れた、夏子に、私は係恋した。」本が縛られ、山積みになっている横で椅子に縛り付けられる夏子。本という無機的なものの横に有機的なオンナが縛られて置かれている。ゴミの散らかる倉庫の冷たい床で縛られ、横たえられた彼女は何を感じていたのだろうか。「1945年19歳の夏、夏子の母、被爆。1979年19歳の夏、夏子、被縛。」撮影の合間にくつろぐ夏子の横に佇む荒木さんの顔は笑っていなかった。

 

 真柴貴子は大学4年生。待ち合わせの喫茶店へ荒木さんが10分前に到着すると、彼女はもう来ていて明日の追試の勉強中だった。「こりゃー股不合格だな、試験の前の日にこんなことしてちゃー。」と荒木さん。「アフリカツアーのOLが、自由行動日にジャングルの奥地で温泉を見つける。誰れもまわりにいない。さっそく全裸、入浴。なぜか石鹸もある。そりゃそうだ、ここは赤坂、ラブホテル「シャンテ赤坂」ジャングルの部屋。」こんな部屋で何をするのかといえば、「貴子は土人に獲えられて、禊の儀式をされ、酋長に捧げられる。もちろん酋長の役はオレ。」ということのようだ。なんとこのジャングルの部屋の風呂には蔦を這わせたディスプレイはもちろんのことブランコまであり、出入り口にはトーテムポールと槍まで立てかかっている。酋長の網にかかった彼女はブランコに逆さづりされ、泡だらけのシュールな姿を晒す。

 

 山口麗子は妊娠6ヶ月。「人道主義の私は、ややチューチョしたが、SM界の貴公子小西洋平は、平然と緊縛しはじめた。」代々木の旅館Kの実篤の掛け軸がかかる前で、彼女は全裸で縛られる。後ろ手、正座の姿勢で縛られた彼女の姿を照らし出す四灯のフラッドランプが生き物のように見える。畳を這うランプのコードとあまった縄。彼女のコンポジションが変えられ横たえられると、ランプも位置が変わり女陰を照らしたり足を照らしたりするのである。「淫乱光線の中で緊縛写しているうちに、私も、ヒューを失くしてマニズムになってしまっていた。」逆海老に縛られたり、逆さ吊りにされて表情をゆがめる彼女。「麗子は、生花のドンブリにジャージャー小水しながら、アタシ、赤ちゃん堕ろしてしまいたかったんだ、と言った。」その写真は凄まじい。正面からの一灯で浮かび上がる彼女は、縄だらけのまましゃがみこみドンブリに放尿している。その表情は歓喜に溢れていた。

 

 女を縛ること。それは何を意味するのだろうか。最後のほうに一編「さみだれ姉弟」という章があり、そこで荒木さんはこんな物語を添える。「そぼ降る五月雨の姉の褥の懐より 露わなる乳房わしづかみの放課後 合成皮革鞄より取り出したる縄数本 責め三昧放蕩三昧の五目七味の唐辛子 現われ出たる写真師荒木と縄師洋平 エイヤッのかけ声だみ声みだら声ほとばしり 哀れなる姉弟の姿や見るも無残の雨霰 弟 極悪非道容姿端麗頭脳明晰縄師洋平の縄 緊呪縛にかかりし時 おりのぞくウットリ顔は資質の持味けれん味かくし味いかばかりや 雨の渋谷は懐手 とがる乳首はすまし顔 熱い股座愁い顔 涙ボロボロ五月雨て 五月雨て さ乱れて 弟 犯される姉を眼前にして 洋平荒木に復讐の炎焚きつけるどころか 嫉妬の情 羨望の眼差しにて驚異のオットセイ学猿轡の声くぐもらせ 自ら姉におおいかぶさりたいの意思表示勃起っき めでたしや あらめでたしやのえろちっくすとおりい 向う三軒両隣りのはっぴいえんどとあいなった げに女は縛られてだれでも美しくなるとの結論に到る」 浪曲風の物語になっていてちょっとわかりづらいが、縄師に縛られた姉の歓喜の表情を見て、弟が欲情して縛られたままの姉とSEXするという話。女は縛られて美しくなるというのが荒木さんの”縛り観”である。

 縛られ、自由を奪われるということは、何をされても抵抗できない状態である。ハダカにされただけでも少なからず奪われる自由。それが縛られることで関係性がより明らかになり、SEXでは対等だった二人のバランスは崩れる。男が女を縛った場合、男は女を征服し、主従の関係が出来上がることになる。どちらが進んだ関係と思うかどうかは人それぞれであるが、縛られた女を見て喜ぶ男がいる以上、男に縛られて歓喜する女もいるということなのだろう。相手を縛る快感、そして相手に縛られる快感。

 解説の南伸坊氏は漫画家にしてガロの編集者でもあった。その中で南氏は荒木さんを「成る天才」と評している。もともと天才は生まれながらにして天才なのが本当だが、荒木さんはその強い意志の力で天才に”成った”というのだ。「アラキ・ノブヨシの男の武器、アラキンZとは、だから「成るドリンク剤」である。なにになるにせよ、とりあえず精力、気力が第一なのであった。」 縄を武器に次々と女を征服していく荒木さん。その天才ぶりを支えているのはアラキンZで強化された男としての精力なのだろう。

2001年2月27日記

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