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パリまでは桑原甲子雄夫妻が同行する。エールフランス機内でディネ(夕食)の時間。荒木さんは赤ワインをあっという間にあけて、陽子さんに教わった「ヴァン・ルージュ・アンコール・スィル・ヴ・プレ」と金髪スチュワーデス(ドイツの女スパイとアダ名をつけていた)に言うと、ちゃんと赤ワインが席まで届き、大喜び。食後、陽子さんは玉村豊男のエッセイでパリの文化を勉強する。曰く「カフェなくしてパリにはなり得ないし、またカフェは、同様の形態が世界の、あるいはヨーロッパのいたるところに存在するにせよ、やはりパリという都市の中に置かれたときにもっともそのカフェらしい特色を発揮する。」 パリへの思いがふくらんでいく。
パリの陽子さんの様子は実に楽しそうだ。それはもちろん、大好きなカフェが至る所にあるのだから。カフェ・ドゥ・マゴの店先で桑原夫妻と共に素敵な笑顔を見せる陽子さん。行く先々のレストランで食べた食事の様子が事細かく著され、全く様子を知らない者でも食事くらい出来るかも、という気にさせる。荒木さんは一つ覚えの「アン・ドゥミ(生ビール)スィル・ヴ・プレ」を連発。 ホテルの朝食は、必ず「バゲットとキャフェ・オ・レ」最初はパリパリしたバゲットをおいしいと絶賛していた陽子さんも、一週間の朝食が毎日同じで食傷。自宅ならご飯に大根とアゲの味噌汁、ハンペンのバタ焼きを食べるのに・・・、と少し弱気。フランスにあこがれながらも同化するのは難しいようだ。荒木さんは「ジャポ寝すっかな」と昼飯の中華まで昼寝と決め込む。パリに滞在中でも和食屋さんに行ったり、アラブ料理の店に行ったり、と、あまりフランス料理そのものに興味がいかないようだ。
陽子さんがスペイン語を話せるのは、お母さんが再婚相手とブエノスアイレスに暮らしているからのようだ。この旅の数年前に陽子さんは一度お母さんを訪ねている。 旅行記はこの後陽子さんのお母さんを訪ねて、ブエノスアイレスまで記述が続く。 あとがきには荒木さんの言葉があった。「長旅の疲れをパリで3日ほどで癒し、東京にもどった。やっぱり、東京が一番いい。とはゆーものの、妻の旅日記を読んで、股ふたりで旅がしたくなったねぇ。新婚旅行の記念写真集に<センチメンタルな旅>と題して、あれから10年目、妻とパリ、スペイン、アルゼンチン、一ヶ月の旅、楽しかった。やはり旅は愛する女とのふたり旅がいい。なーんちゃって。2日酔いの脳天気、寂しがりやの私には、ひとり旅なんかできっこない。(後略)」 ここに至って、読者は題名が<10年目のセンチメンタルな旅>であることを知る。つまり、あのセンチメンタルな旅の中で登場した陽子さんの”漂うような存在”を追う、という荒木さんのとらえ方は、ここではもう見ることは出来ないということだ。十年一昔というが、荒木さんと陽子さんの写真関係が、10年でここまでかたちを変えてきたということは、筆者も既婚者であるだけに興味深いことだった。 発行日の7月7日は、荒木さんと陽子さんの結婚記念日である。写真家として、愛妻家として、夫婦の記念日にこの本を発行する荒木さんの姿は清々しいと思う。 2000年8月22日記 |
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