寿命の縮む想い


前日作業終了少し前に滑り込ませた車二台分の荷物の内容は、すべて戦記ものだった。何でも神風特別攻撃隊に志願し、任命されたものの出撃することなく終戦を迎えられたのだそうで、お国の為に死ねなかったやり切れない想いがこの本の収集に向けられたと奥様は言っていた。
そんな想いがこもっている本である。「ついついお金を払いすぎてしまった」と神保町へ本を運ぶ途中の渋滞の中でずーっと後悔していた。
昨日はあまり眠れなかった。損をするといってもお支払いした以上の金額を損することはないんだ、と自分に言い聞かせたが、安心できず。ぐったりするほど体は疲れていたのに頭が睡眠しようとしてくれなくて、4時半にはとうとう起き出してしまった。

体を引きずるようにして朝8時に古書会館へ辿り付く。カーゴ4台分の荷物を壁面に8本口にして並べ始める。見ればみるほど「ヤバイ」と思う。たしかになりそうな体裁のものもあるが、全体からすれば多くない。安い本はどんなに積み上げても安い、という市場の鉄則があるのだ。

朝8時から始めた作業は、自分の持ち込んだ荷物の仕分けという意味もあり、誰も手伝おうとはしない。その上出品記号表の係という自分の立場にたびたび仕事を中断され、やっと出品封筒を全て付け終わったのは11時少し前だった。

一新会の大市と祝日休みが重なり二週間あいた明古は、最終的に1450点(!)の出品量。1階には収まりきれず、3階まで満杯になってしまった。こんな沢山の品物にうちの荷物なんか紛れてしまうのではないか、と、また裏へ裏へ気持ちが回りだす。実際、12時を過ぎてご同業のお客様が徐々に入り始めても、うちの本の前は素通りしてしまうような気がする。

食事を摂る間も寿命の縮む想いが体中を這いまわる。1450点の豊富な出品量の中には折角優品がズラリと並んでいるのに目が泳いでしまって集中できず、入札できなかった。

開札時間!札が開いていく。主任が「甘露さん、結構なってるよ」と声を掛けてくれた。そうかぁ、良かった、と少し安心。でもまだ油断は出来ないゾ、と気を引き締める。それが前半をすべて開け終る頃には安堵の溜息に変わった。メインの戦記ものでボーなし。全て売れた。

買ってくれたご同業様に感謝。そしてワタシにチャンスをくれたお客様に感謝感謝である。

2000-09-29 | Posted in 甘露日記Comments Closed 

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